2008-04-19

「ビハーラ」って何?7of8

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私の病状も3日目の朝にはかなり回復していた。
朝起きて、洗面台で顔を洗い歯を磨いて着替えをした。看護婦さんが朝食を持ってきてくれて、気分を変えてベットの上でなくソファーで食べてみた。それだけでさらにグッと回復したように感じられた。まだ熱があるが、腹痛もおさまりいい方向に向かっている。なんとなく祭壇が気になり近寄って手を合わせてみた。
ヌックが私のために買ってきてくれたペンダント型仏像を手にとってよくみると、それはプラスチックのケースの中に台座と背面が金でその上に黒っぽい金属製と思われるお釈迦様が鎮座しているものであった。裏側をみるとタイ文字とも違う不明な文字で何か書かれていた。

朝食が食べ終わると、主治医と担当看護婦さんが回診にきた。先生は、アメーバ赤痢はもう大丈夫ですね、マラリアからくる熱はあと1〜2回高熱のサイクルがくるがそれで直るでしょう、と太鼓判を押してくれた。それからこの病院では多くの看護学生が研修しているのだが、この病室にきてもかまわないかと聞かれたのでOKと答えた。
看護婦さんが部屋を一通り見回し祭壇を見て、本当にお花がきれいないい部屋になりましたね、とニコッとした。主治医も、貴方の心がリラックスして落ち着いていれば病気も早く治るからいいことですよ、と付け加えた。

彼らが出て行くのと入れ替わりにヌックが少し遅れてきた。
一番下の3歳の妹の具合が悪いらしい。医者に行ったのかと聞いても何も答えない。無理しないで早めに医者に行った方がいいなどというのは、恵まれた日本だから当たり前の会話なのであって、ここタイではお金の問題からよっぽどのことになってから医者に行くのが普通だ。入院してこの部屋にくる途中で他の個室を見たが、外国人と華僑と思われる中国系タイ人しか見かけなかった。
ヌックは病院で働いているのに、その家族が簡単には病院にかかれない。それが現実なのだ。

私はお金の事は心配しなくていいからすぐに妹をこの病院に連れてくるように言った。しかしヌックは何も言わず部屋の片付けを始めた。どう彼女のプライドを傷つけずに説得したらいいものかと思案していた。洗濯物をどこかにもっていくというヌックを呼び止めて、もう一度お金は私が払うからすぐに妹を連れてくるよう言ったがクビを横に振った。
しかたないので彼女の手を引いて祭壇の前で手を合わせ、私がタンブン(徳を積む事)するのを邪魔するのか?と語気を強めて言うと、5歳の弟が方耳が聞こえにくくていつも痛いといっている、とやっと答えてくれた。2人とも連れておいでと私が言うと、彼女はタクシー代を私に要求して受け取り祭壇にお祈りして部屋を飛び出て行った。

医療コーディネーターに電話をして担当看護婦と部屋付看護婦の3人に部屋に来てもらった。
さて、私の最初のお願いです、というと笑いがおきて3人とも真剣に聞いてくれた。事情を話し、予約も紹介状もないがヌックの弟と妹をすぐに先生に見てもらえるようにして欲しい事、お金は私が払うので心配ない事、診察の結果を日本語で私に説明して欲しい事、の3点をお願いした。

コーディネーターが口を開いた。
貴方がしようとしている事はとても良いことですが、貴方は外国人で旅行者ですよね、病気が治ればこの町から出て行ってしまい外国に行ってしまう人です、あまり深入りしない方がいいのでは・・・と。
私はこの病院でも、ここに来るまでも沢山のタイ人の方に助けてもらったのでお礼がしたい。あなた方は、私がタンブンするのをじゃまするのか?と言うと3人がほぼ同時にOK!と答えた。
3人はタイ語で手短に話し、2人はすぐに出て行きコーディネーターは内線電話を5本かけた。最後の電話を切ると、every things OKと私の口真似をしてニコッとしてでていった。

お昼過ぎになって、ヌックと母親と弟と妹が部屋に入ってきた。
母親は遠慮がちにすまなそうな顔をして子供を抱いたまま手を合わせた。4人ともあまりに似ているのでみんな同じ顔だなぁーと私が笑うと、ヌックは同じ血が流れているのよといって頬を膨らませた。5歳の男の子はとても恥ずかしがり屋でお母さんのそばを離れなかったが無理やりベットの上に引き上げるとキャッキャとうれしそうで打ち解けた。少しだけ右耳のガーゼが痛々しかった。

少ししてコーディネーターがきて、日本語で説明してくれた。妹の方は回虫がいるようで虫下しを飲んで様子をみれば大丈夫であり、弟の方は中耳炎と内耳炎をおこしていて膿を出して消毒をしたがかなりひどくて右耳の聴力が著しく回復する事は見込めないが今よりはよくなること、化膿止めの塗り薬と服用する消炎鎮痛剤を1週間分だしてあるのでこれも問題ないが、2人とも1週間後にもう一度念のため来て欲しい事などを分りやすくゆっくりと伝えてくれた。料金は2人分で850バーツ(2550円)であった。その外に薬代がかかるというので、すべてまとめて請求を私に回してくれと伝えた。
母親にはその部屋が居心地が悪かったようで、ほどなく祭壇と私に手を合わせて帰っていった。

入院の5日目の朝の回診で、まだ完治ではないが薬さえ飲めば大丈夫なので退院してもいいと言われた。
体が鈍ってきているので病院内を散策した。相変わらず外来は凄い人の数でかなり騒々しく、一般病棟の大部屋は設備も古くて私の病室とは別世界の現実がそこには存在していた。

それにしても看護婦さんの数が非常に多い。看護学生もいるのであろうが、異常ともいえる人数である。医療に対する考え方の違いなのか、単に人件費が安いからであろうか?日本では考えられない人数である。その他、事務系職員・ヘルパー・掃除係など入れたら、患者さんと病院関係者の数は同数いるに違いない。
そして、目的は分らないがお坊さんが普通に病院内のいたるところにいる。死人が出たわけでもないのに数名の僧侶が大部屋で読経をしていて入院患者や見舞い客が喜捨(お布施)をしていた。それが当たり前の日常の風景であるらしい。

日本で坊さんが坊さんのカッコウで病院内をうろうろしていたら、縁起が悪いと苦情がでるし妙な噂が立ちかねない。それが日常の風景になっているのはやはりシャム王国上座仏教の伝統的重みなのであろうか?

自分の病室に帰りヌックや部屋付の看護婦さんの顔を見るとホッとした。それと同時にどうしてこんな豪華な個室で快適な生活をしているのか分らなくなった。ヌックの母や幼い兄弟には、私と言う人間はどのように映っているのだろうか?
街中の屋台でラーメンを食べても12バーツ(36円)でビンのコーラが5バーツ(15円)という世の中で、1食400バーツ(1200円)の幕の内弁当を食べている人間を・・・。

私は明日の昼過ぎに退院しようと決めた。
どのようにヌックにこのことを伝えればいいのか、彼女は割りのいい臨時収入を失うわけだし、数日を過ごして仲良くなり情もでてきた。しかし彼女はやはり学校にいって中学を卒業すべきだ。
ストレートに明日の午後に退院するよ、と言ってみた。ヌックは凄く喜んでくれて、よく分らないが私の体をかなりの力でバシバシ叩いた。


つづく

theme : 仏教・佛教
genre : 学問・文化・芸術

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